栄養と精神状態について

今年は3月下旬に桜が満開となり、例年より一足早く春が訪れました。京都では国内外からの観光客が急増し、コロナ前のような賑わいを見せています。みなさんも、それぞれ春を満喫しておられるのではないでしょうか。コロナも落ち着きをみせ、会食の機会もこれから増えてくるでしょう。楽しく食べることが心の栄養になることはもちろんなのですが、栄養そのものが精神状態にも大きな影響を与えることがわかっています。今回は、栄養と精神状態についてお伝えしたいと思います。

食べ物があふれ、フードロスが社会問題となっている一方、個々の食生活では栄養バランスが崩れ、栄養不足になっている場合も少なくありません。例えば、一人暮らしの若い方々でよく見られるのが、朝は食べない、昼はコンビニのおにぎりかサンドイッチ、夜はインスタントやコンビニのお弁当、といった食生活です。家族と同居の中高年の方であっても、一日1食か2食で、内容に偏りのある場合があります。外来診療していると、そのような食事スタイルによる栄養不足が、精神的な不調の一因になっているのをよく経験します。

特に女性で多いのは鉄不足です。鉄が不足すると、疲れやすい、情緒不安定、注意力低下、イライラ、気分の落ち込み、食欲低下、寝起きが悪い等の症状が出現します。月経のある年代の女性は、特に鉄不足になりやすいので、意識して鉄分を補給しましょう。鉄は動物性の吸収率が良く、レバーの吸収率は13% マイワシは11% 鶏肉は23%で、野菜やほうれん草では1%~数%と言われています。赤身の肉やレバーは鉄を補給するのによい食品ですが、鉄なべや鉄瓶、鉄のフライパンといった鉄製調理器具を使えば、溶出した鉄分を自然に取り入れることができます。


次に、精神状態のカギとなるのは脳内ホルモンです。脳内ホルモンの原料はタンパク質ですが、タンパク質が分解されたアミノ酸の中で、フェニルアラニンはドーパミン(意欲ホルモン)やノルアドレナリン(闘争ホルモン)、トリプトファンはセロトニン(幸せホルモン)やメラトニン(睡眠ホルモン)の原料となっており、十分なタンパク質をとることが、脳内環境に重要であることがお分かりいただけると思います。また、脳内ホルモンの生成にはビタミンB6が必要で、ビタミンB6が不足すると、抑うつ、集中力の低下、刺激に対する過敏性、睡眠リズムの乱れや悪夢につながります。さらに、ビタミンB群はあらゆる酵素の補酵素として働き、エネルギーを得る上で重要な働きをしています。ビタミンB群は過度の集中やストレスで大量に消費されてしまうので、意識して取るようにしましょう。


また、血糖値の乱高下も気分変動に大きく影響しています。血糖が急上昇したあとの反応性低血糖によって不安感、イライラ、眠気、倦怠感等が出現します。糖質の過剰な摂取は控え、野菜から食べ、炭水化物は最後にとるといった食べ方の工夫も血糖値の変動を緩和するのに役立ちます。

その他、亜鉛不足が落ち込みに関係し、腸内フローラはビタミンK、ビタミンB群はじめなど多くの栄養素を合成しています。腸内フローラを健康に保つ腸活も、心の健康に役立ちます。


主な栄養素多く含む食品
ビタミンB1豚肉、ウナギ、玄米、大豆
ビタミンB6マグロ、牛レバー、さんま、ニンニク、ピスタチオ、ドライトマト
ビタミンB3(ナイアシン)カツオ、たらこ、マイタケ、干しシイタケ
レバー、赤身の肉、カツオ、豆乳、厚揚げ、ヒジキ
亜鉛牡蠣、ホタテ貝、煮干し、牛肉、レバー、チーズ、アーモンド

健康的な食事や適切な栄養はお薬や治療以上の良薬。そして、おいしいと幸せを感じます。楽しみながら、おいしく、幸せを味わってまいりましょう。